火星の土や水を使って、建材になるプラスチックを作る微生物が発表されました。Pioneer Labsが2026年9月22日に公開した「sPL.001」です。
火星を緑化したり、現地で建材を作ったりすることに成功したわけではありません。今回発表されたのは、火星の材料を模した培地で微生物を育てた実験と、将来火星で生産するための構想です。
どんな微生物なのか
sPL.001は、地球の細菌「Cupriavidus necator」を火星向けに進化させた菌株です。火星模擬土壌に含まれる無機栄養分と水、そして処理した大気由来の炭素源を使い、PHAという種類のバイオプラスチックを作ります。PHAの一種であるPHBは、容器や成形部材などに利用できる素材です。
ただし、火星の大気をそのまま菌に与えるわけではありません。大気中の二酸化炭素などを、菌が使える酢酸に変える処理が必要です。土や空気を入れるだけでプラスチックができるのではなく、原料を整え、温度や水分を管理する設備が欠かせません。
実験では何が確認された?
研究チームは、火星模擬培地で育つ候補の微生物を調べ、適応実験室進化によって性能を高めました。Pioneer Labsは、sPL.001が親株に比べてバイオプラスチックの生産量を約3倍に高めたと報告しています。
この実験は地球上で行われました。実際の火星の土や大気を使ったわけではなく、火星環境を模した培地での結果です。発表とあわせて、菌株の進化方法、安全性の評価、火星で生産設備を運用する構想を扱った3本の研究が公開されています。
火星ではバイオリアクター内で使う
sPL.001は火星の地表にまいて育てる菌ではありません。研究チームの構想では、菌を加熱・撹拌し、温度や水分などを保つバイオリアクターの中で育てます。生産したバイオプラスチックを加工し、将来の居住施設などに使う計画です。
Pioneer Labsは、ロケット1回分の設備を運び、約4年かけて小規模な都市に相当する建材を生産できる可能性を示しています。これは設備や生産量をもとにした将来構想で、火星で実証されたものではありません。
漏れ出した場合の安全性は?
研究チームは、菌が装置の外に漏れた場合、火星の低い水分量や栄養源となる炭素の不足によって増殖できず、短期間で死滅すると説明しています。火星環境で微生物が広がるリスクを評価するための枠組みも提案しました。
これは研究チームによる実験とモデルに基づく評価です。あらゆる条件で絶対に生き残らないと独立に証明された、という意味ではありません。将来、火星へ生物を持ち込む際の惑星保護のルールについては、引き続き検討が必要です。
テラフォーミングへの第一歩?
Pioneer Labsは、sPL.001を火星を住みやすくするために必要な「5種の先駆生物」の第1弾と位置づけています。しかし、この菌だけで火星の気候を変えたり、植物が育つ環境を作ったりするわけではありません。
今回の成果は、火星の土に含まれる成分を地球の微生物が利用できる可能性を示し、現地の資源から材料を作る道筋を検討したことです。正確には、「模擬火星材料を使い、管理された装置の中でバイオプラスチックを作る菌株が開発された」段階です。

