ヒューマノイドロボットを開発するFigureは2026年9月17日、新しいAIモデル「Helix 2.5」を発表しました。

Helix 2.5は、Figure 03などのヒューマノイドを動かすためのAIです。カメラから周囲を認識し、歩行し、物をつかみ、両手を使って作業するといった一連の動作を制御します。

今回の重要なポイントは、単純に「家事ができるようになった」ことではありません。

一度も入ったことがない家でも、追加学習なしで家事を実行できるようになったことです。


初めて見る家でもそのまま働く

従来のロボットには大きな問題がありました。

工場や研究室など、事前に学習した環境では動けても、家具の位置や部屋の形が変わると性能が大きく低下してしまいます。

Helix 2.5では、この問題を「ゼロショット汎化」と呼ばれる能力によって改善しています。

ゼロショットとは、簡単に言えばその場所専用の訓練を一度も行わずに作業することです。

Figureはサンフランシスコ・ベイエリアにある30軒の住宅を使い、

・リビングの片付け ・タオルを畳む ・ベッドメイキング

という3種類の作業を実験しました。

評価対象となった住宅では事前のデータ収集を行わず、家に置かれている玩具やタオル、寝具も訓練には使用していません。モデルの追加学習や微調整も行われていません。


ベンチマークはどうなのか

特に大きな差が出たのが成功率です。

Figureは同じ構成・同じ作業データを使用し、「Index」で事前学習したモデルと、事前学習なしのモデルを比較しました。

結果は、

事前学習なし:9%

Index事前学習あり:56%

となりました。

成功率は6倍以上に向上しています。

しかも、この56%という数字は途中までできれば成功、という評価ではありません。

例えばリビングの片付けでは、散らばった13〜15個の玩具をすべて拾ってバスケットに入れる必要があります。タオルもすべて畳み、ベッドメイキングも最後まで完成して初めて成功としてカウントされます。

部分点はありません。


少ないデータで、多くの場所に対応

もう一つ重要なのが、必要な学習データの量です。

Helix 2.5は、従来のHelix 02で同じ作業を学習させた場合と比較して、約半分のタスク固有データで同程度の成功率を達成しました。

しかもHelix 02は実際に作業する環境のデータを使っていたのに対し、Helix 2.5は30軒の未知の住宅でゼロショット動作しています。

これまでのロボット開発が「場所ごとにロボットを訓練する」ものだったとすれば、Figureが目指しているのは、一度幅広く世界を学習させれば、新しい場所でもその知識を使えるロボットです。

LLMが大量の文章から事前学習してさまざまな質問に対応するように、ロボットにも大量の「人間の行動」を事前学習させようとしています。


なぜ急に性能が上がったのか

その中心にあるのが、Figureの巨大な人間行動データセット「Index」です。

Indexでは世界中の人間が行う現実世界の行動を動画として集め、それをHelixの事前学習に利用しています。

Figureによれば現在、Indexには1秒あたり約35分相当の新しい人間行動データが追加され続けています。

さらに同社はHelixの学習用計算資源に35億ドル規模を投じる方針です。

つまりFigureは、

人間の行動データ → 巨大な事前学習 → ロボットへの転移

という、LLMに近いスケーリング戦略をロボティクスでも成立させようとしています。


誰が使えるのか

現時点でHelix 2.5は、ChatGPTのように一般ユーザーがアクセスできるAIサービスではありません。

Figureが開発するヒューマノイド「Figure 03」を動かすためのAIシステムであり、今回の公式発表でも一般向けAPI、ダウンロード版、利用料金などは発表されていません。FigureはFigure 03を家庭向け・商用向けの汎用ヒューマノイドとして開発しています。

そのため今回の発表は、「今日から誰でもHelix 2.5を使える」というものではなく、Figureのヒューマノイドが現実世界へ展開されるための基盤技術が大きく進化したという発表だと考えるのが正確です。


何がすごいのか

今回のHelix 2.5で最も重要なのは、家事そのものではありません。

「ロボットは配置される場所ごとに学習し直さなければならない」という制約を崩し始めたことです。

知らない部屋を見て、歩き、物を探し、両手を使い、失敗すれば姿勢を変えてやり直す。

人間にとって当たり前だったこの能力が、ヒューマノイドにも少しずつ実装され始めています。

成功率はまだ56%であり、Figure自身も汎用ヒューマノイドが完成したとはしていません。

それでも、ロボットを「場所ごとにプログラムする機械」から、一度学習した知識を新しい現実世界へ持ち込めるAIへ変えるという意味で、Helix 2.5は重要な進歩です。